第1章 愛すべきキャラクターのKさん

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「ワシな、ずっと肉体労働しかした事がないんよ。」 いつになく真剣な表情のKさん。 「退院してから、軽めの仕事させてもらってたけど、やっぱりムリやなって・・・。だから・・・田舎帰ろうと思ってな・・・。」 なんか、寂しそうなKさんの顔を見るのが悲しくなってきた私。 「だから・・・この店来るのも、今日が最後やねん。最後してもらうんがエレジーさんで良かったよ。」 「あ、ありがとうございます・・・。」 こんな心の準備もなく、Kさんを施術するのが最後だなんて・・・。 とりあえず、次の予約もあったので、感傷的な気持ちを切り替えて、いつもの60分コースを始めた。 Kさんは、いつも施術する人間にいろんな事を質問してくる。 だから、この店のスタッフのだいたいの事は知っている。 でも、いざ自分の事となると、多くを語らない。 でも、この日はいつもと違った。 「エレジーさん、俺な、仕事終わって、車でコンビニ寄って、缶ビール買って駐車場で飲むんや。」 「え?なんでなんすか?家帰って、ゆっくり飲んだらいいじゃないっすか?」 「家帰っても1人やろ。だから、なんか帰りたくないねん・・・。」 普段接している時の明るいKさん。 でも、私たちが知らないKさんの心の闇を垣間見た気がした。 Kさんの田舎は、遠く遠く北にある県だった。 「あ、エレジーさん、今日は顔もマッサージしてくれる?」 いつも、「おう!おまかせで頼むわ!」というKさん。 Kさんがリクエストしたのは初めてだった。 そういえば、顔がむくんでいた。 「はい、わかりました。」 私は深く詮索しなかった。 最初は、シリアスなトーンで話していたんだけど、途中からは、いつものバカ話しで笑いあっていた。 しかし、無情にも時間は刻々と過ぎていく。 いつも過ごしている同じ時間じゃないように、あっという間に60分がきてしまった。 「今まで楽しかったよ!ありがとう!」 話しを聞いていた、回りの施術中のスタッフも、Kさんにお辞儀をしていた。 「こちらこそ、いつもご来店して下さって、ありがとうございました!Kさん、田舎帰っても、お元気で!」
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