始まりの唄

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「この話、どうも妙なんですよね……そうは思いませんか?」 「いえ、私には分かりませんが……」  顔をひきつらせ、首を振る高岡。すると、士郎は口元を歪めた。 「抗争の終結……その直接のきっかけになったのは、両団体の末端の組員同士が町外れの巨大な倉庫に集まり、派手に殺り合った事件なんですよね。銃声が派手に鳴り響き、死者が百人近く出たとか。当時は、海外のマスコミまで取材に来たそうですね。三十年たった今でも、ヤクザの間では語り草になっているとも聞きました」 「お、恐ろしい話ですよね……でも、私とは何の関係もありませんが」  ひきつった笑みを浮かべながら、口を挟む高岡。だが、士郎はその言葉を無視して話を続ける。 「まあ待ってくださいよ。俺の調べた情報では、死者のうち五十人近くがバラバラにされていたそうなんですよ。首をちぎられていたり、胴体を真っ二つにされたり……そんな殺し方が出来るのは、知恵のついた北極熊くらいなもんでしょうな。ひ弱な日本のヤクザには、絶対に不可能ですよ」 「で、でも……警察はヤクザの抗争により、全員が相討ちのような形になったと発表していましたが――」 「有り得ない話ですね。警察としても、手っ取り早く事件の捜査を終わらすために、そんな発表をしたんでしょうが……地球に降り立ったエイリアンの犯行だ、という方がまだ信憑性がありますよ」  そう言って、士郎は笑って見せた。だが、彼の目は笑っていない。むしろ、冷たい光を帯びている……。  冷ややかな目で高岡を見据え、士郎はなおも言葉を続けた。 「そして高岡さん……現在、あなたが代表を務められている児童養護施設『ちびっこの家』なんですが、当時は抗争の真っ只中にありましたよね。事件のあった場所も近い。あなたも、その施設の出身ですから覚えているはずですが――」 「ちょっと、いい加減にしてくれませんかねえ」  低く、押し殺した声。高岡の表情が変わっていた。士郎を見る目には、殺気のようなものすら感じられる……だが士郎は平然とした表情で、その視線を受け止めた。 「おやおや……どうかしたんですか、高岡さん?」 「あの事件と私らとは、何の関係も無いんですよ。話せることはありません。話す気もありません。申し訳ないですが、帰らせてもらいます」  そう言うと、高岡は憤然とした様子で席を立つ。そして立ち去ろうとした。
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