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しかし、そんな大男の口から出た言葉は――
「海斗ちゃん、本当に気を付けてよ。アンタが何やってるか知らないけど、アタシはパクられるのは御免だからね」
オネエ言葉でそう言うと、大男は体をくねらせながら有田海斗の尻を叩いた。すると、海斗は顔をひきつらせながら飛び退く。
「わ、わかってるよ。だから、どさくさ紛れにケツ触るな」
「いいじゃないのよう。減るもんじゃあるまいし」
言いながら、なおも近づいて来る大男。それに対し、海斗は顔をしかめて見せた。
「減るんだよ! 小林さん、あんたに触られると俺の中のSAN値が減るんだって!」
「はあ? 何なのよサンチって!?」
「何だよ、知らねえのか……SAN値ってのは、俺の中の正気の数値だよ!」
言いながら、海斗は小林を睨みつける。それに対し、小林は拗ねたような表情をして見せた。
翌日は日曜日だ。
海斗は、昨日と同じ黒いスーツとソフト帽を被ったスタイルでのんびりと歩いていた。彼は今、第二の母校とも呼べる場所へと向かっているのだ。その表情は、昨日とはうって変わって明るいものだった。
大きな布袋を片手に、ずかずか歩いて行く海斗。彼の前には、古びた木造の建物がある。木の塀に囲まれ、中からは子供たちのはしゃぐ声が聞こえていた。さらに門のところには『ちびっこの家』と書かれた木の看板が付けられている。
どう見ても、海斗には似つかわしくない……そんな場所に、彼は何のためらいも無く入って行く。すると――
「あっ、海斗だ!」
「チンピラの海斗が来たぞ!」
「ねえねえ、何もってきたの?」
庭で遊んでいた数人の子供たちが、一斉にまとわりついて来た。すると、海斗は顔をしかめる。
「海斗さん、だろうが……さんを付けろ、ガキ共。それに、チンピラって何だよチンピラって……」
ブツブツ文句を言いながら、海斗は子供たちの間をすり抜けて進んで行く。そして、建物の中に入って行った。
「やあ海斗くん、今日も来てくれたの」
応接室に行った海斗の前に現れたのは、院長の後藤達也だ。彼は、身長は百七十センチほどだが体重は百キロ近く、体型は雪だるまのように丸い。顔つきも、実に温厚そうで安心感を与える。海斗を見る目は暖かく、親愛の情に満ちていた。
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