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そんな中を、顔をしかめながら歩く海斗。すると、暗闇の中に光るものが見えた。アーモンド型の、小さな二つの光だ。
思わず首を傾げる海斗。あれは人のそれではないだろう。猫か何かの目だろうか。
「おい瑠璃子、持ってきたぞ。居ないのかよ?」
海斗は暗闇に向かい、そっと声をかけてみる。
すると――
「何しに来たの?」
そう言いながら、工場の奥から姿を現した者……それは一人の少女であった。まだ三月だというのに、黒いTシャツとジーパン姿である。また異常に色が白く、薄明かりの下でも不健康そうな顔色なのが分かる。髪は切れ味の悪いハサミででたらめに切ったような長さだ。
そんな少女の年齢は、十代前半であろうか……少なくとも、二十五歳の海斗よりは確実に年下に見える。海斗の娘と言っても不自然ではない外見だ。もっとも、その年齢には似つかわしくない落ち着いた態度で立っている。整った美しい顔立ちであることも手伝い、奇妙な雰囲気を醸し出していた。
しかし、そんな少女の口調は実に乱暴なものであった。
「あのさ……別に、毎日来なくてもいいのに。あんた暇なの? 暇で暇で仕方ないの?」
「暇じゃねえよ、バカ野郎が。ただな、せっかく持ってきたんだから……さっさと飲んでくれよ。保存すんの、割と面倒なんだぜ」
言いながら、海斗は布袋に手を突っ込んだ。そして何かを取り出す。
彼が取り出した物……それは、小さなビニールパックであった。中には、真っ赤な液体がなみなみと入れられている。
そのビニールパックを見た瞬間、少女の顔つきはみるみるうちに変わっていった。暗闇の中、少女の瞳が紅く光り始める。その口からは、鋭く尖った犬歯が伸びていた……。
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