お前のこと、好きなんだよ?

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きゅっ、と首元に蝶を結んだ翔は 「食事の用意ができていますよ。」 と微笑んだ。 「うん。飲み物は?」 「レモンティーです。 ヌワラエリア茶葉を使用していますよ。」 「そ。ホットにしてね。」 スタスタと歩けば「イエス。」と彼は小さく言った。 「……………、父さん達は?」 返ってくる答えは分かりきっているけれど 毎朝、聞いてしまう。 翔は少し、困った様に口元を下げると 「本日もお帰りになっておりません。」 と言った。 両親は物心ついた時から、この屋敷にいなかった。 俺を育てたのは翔の父親、今は田舎で暮らしているはずの乳母だった。 「………………誕生日、祝われたことないな。」 両親の顔なんて写真でしか見たことがないし、 声だって、好きな食べ物だって、色だって分からない。 そんな2人を両親と呼んでいいのか。 とさえ、思った時期が度々あった。 「……………。」 無言でテーブルに付けば、和食が並べられる。 ほうれん草の煮びたし 焼きじゃけ がめ煮 わかめと豆腐の味噌汁 筍と山菜、鶏肉の入った炊き込みご飯 「……………今日は随分渋い朝飯だな。」 隣に立つ龍太にそう言えば 「坊ちゃんがフレンチは胃がもたれるって言ってたからな。」 と笑った。 確かに、フレンチとか中華は苦手だ。 爺くさいって言われるかもしれないが、食べると胃がもたれる。 「……………ありがとな。」 そう龍太に言えば 「礼は翔に言ってやんな。 このメニュー、彼奴が考案したんだぜ。」 と笑った。 確かに、俺が好きながめ煮がある。 ほうれん草も煮びたしにされていて食べやすそうだ。 「……………そうか。」 後で、ちゃんとお礼いおう。 と、思って翔に声をかけたはいいが 「あ、ああありっ、ありがっ!」 「? あり?」 「ありがとう。とか言うわけないだろ! 哀れだな!執事の分際で期待でもしたか!」 とツン発動してしまった。 その後、やらかした!と気が付き自室に逃げたのは言うまでもないだろう。
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