お前のこと、好きなんだよ?

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目の前のオペラを眺め、それにフォークを入れる。 軽く、力を入れるだけでいとも簡単に崩れたそれを口に運ぶと 「………………む。」 薫りの割には、甘さが控えめに作られていた。 「坊ちゃんが食べすぎてもいいように甘さ控えめにしたんだけど、どうよ?」 「少しバターを入れすぎでは? 濃いです。」 「うっ、でもよぉ、焦げちまうんだよな。」 「そこをどうにかするのがあなたの役割でしょうが。 坊ちゃんが太ってしまったらどうするんですか。」 ジロッ、と龍太を睨みつけると 「へいへい。 バター少なめにするのな。 で?味はどうよ?」 「美味しいですよ。 珈琲の風味がチョコレートと、程よくマッチしていて」 もっもっもっもっも、とそれを口に入れ続けると 「そうかいそうかい。」 と龍太が嬉しそうに笑った。 心なしか、犬の耳と尻尾が見える。 「ご馳走様でした。」 カチャ、とフォークを皿の上に置くと 「お前もたまには花でも愛でてみたらどうだ? 癒されるし、気分がスッ、とするぞ?」 そう、龍太に言われた。 「そうですね。考えておきます。」 適当にあしらって、廊下に出ると掃除用具を手に 屋敷を歩く。 コツ、コツ……………と自分の革靴の音の他に たっ、たっ、たっ、と走る音がする。 足を止めれば、その足音もそこで止まった。 「…………………………。」 まるで気がついていない、というように歩き出せば その足音がついてくる。 「はぁ、何してるんですか? 坊ちゃん。」 わざとらしくため息をつき、後ろを振り返ると 「あっ!」 と声を上げ、慌てたように辺りを見回す坊ちゃんがいた。 「あっ、いや。えっと…………………」 「用事があるのでしたら手短にどうぞ。 屋敷の掃除が残っていますので。」 にっこり、微笑んでみせると 「………………いや、その。 今夜、部屋に来い。」 とそっぽを向かれた。 「………………………イエス。」 ああ、やっとこの関係が進展するのだろうか。 そんなことを考えながら、歩くと 「早く来いよ!」 と背後から声をかけられた。
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