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ではカラスは…?
そう思い顔を上げると、ペンギンを抱えた子供がじっと私を見ている。
目が合った瞬間、まるで金縛りにでもなったように身体が固まり、汗が噴き出す。
ペンギンを抱え、私の目を見つめたまま、子供は口を開いた。
「おかあさんおかあさん、あのおじちゃん、すごいあせかいてるよ。どうしたのかなぁ?」
あれほど微笑ましかった母親の笑顔が、ただ張り付いた面のように見え、嫌な予感しかしない。
「あのおじちゃんはね、毎日のお仕事でとても疲れてるみたいだね」
少し拍子抜けだった。
確かに、少し疲れているようだ。
ペンギンも、チューリップの中のお姫様も、見間違い…もしくは幻覚に違いない。
ましてやあの親子に、何らかの能力でもあるんじゃないかと、一瞬でも思ったなど、正気の沙汰ではない。
今日出勤したら、少し休暇をもらうとしよう。
まったく今日の私は、どうかしている。
母親の意外な返答を聞いて動き出した身体を、会社へと進め始める。
母親に軽い会釈をし、数歩歩いた時だった。
「あのおじちゃんはね、毎日、地球を侵略しようと企んでる、わる~い宇宙人と戦ってるんだよ」
「だからとっても、つかれてるんだね!」
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