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「ありがとう。私はもう死んだと思ってください」
サシャ様は、ベランジェ高大神官様の心を有難く思いながらも、自身を枷にはしたくなかったのだろう。それを知るから、頷いたベランジェ高大神官様の顔が歪められた。
「サシャ様、身を飾るための宝石が一つも・・・・・・。まさか、奪われたのですか」
サシャ様の身に着けていた宝石は、神の護りの意匠をこらした神殿に仕える細工師の傑作だった。それを与えていたのは、もちろんベランジェ高大神官様で、違和感は将軍に対する不信感に変わってもおかしくないものだった。
「ラルフ、どういうことだ」
「私が見つけた時のままお連れ致しましたが――」
将軍が私たちを連れて来た男に訊ねた。
「ベランジェ高大神官様・・・・・・、私が」
サシャ様は慌ててベランジェ高大神官様に真相を伝えようとしたけれど、私が言うべきだと思って失礼ながら、言葉を遮らせていただいた。
「高大神官様、サシャ様は神殿から逃げるといった子供達に、ご自分の装身具を少しずつお与えになったのです」
サシャ様は、神殿で暮らす子供達が無事に逃げられるようにと少しずつ宝石をばらして、与えたのだった。子供達は、サシャ様も一緒に逃げようと言ってきたけれど、サシャ様が首を縦にふることはなかった。自分が一緒にいけば、追跡がかかって子供達に危険が及ぶと考えらえたのだ。私にも逃げるようにとおっしゃったけれど、私はサシャ様の側で息絶えることを望んだ。
「子供達に与えたのですか」
「申訳ありません。神殿のものなのに――。私はきっと直ぐに殺されると思っていたので、少しでも子供達の生きるための足しになればと勝手なことをしてしまいました」
ベランジェ高大神官様は、サシャ様の気持ちを理解していたと思う。眉間の皺がまた一つ減ったからだ。
「いえ、サシャ様らしい――。それならいいのです。閣下、出過ぎたことを申しました。お許しください」
見方を変えれば、将軍を侮辱したことにもなるだろう。けれどベランジェ高大神官様は、将軍がそれくらいで怒るとは思っていなかったようだ。
「サシャ様に母上の形見をお渡ししても良いでしょうか」
「好きにしろ」
将軍はサシャ様に興味を失ったように、幕僚たちとの打ち合わせに戻られた。
ラルフと呼ばれた男が、私たちを案内したのは王妃の部屋のうちの一つだった。
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