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「その通りです。王にも王妃にも忘れられて、出来る事といえば、聖句を読むことと、歌を歌うことだけ――。剣も勉学も何一つ与えられてはおりません。馬すら乗れない王子です」
ベランジェ高大神官様の言葉は正しくはあるが、正確とは言えない。
王と王妃には忘れられていたのではない。あえていうなら隠されていたのだ。沢山の子供を作った王は、王子が何人いるなんて気にもしなかったし、神殿から出ない王の子を王妃は覚えていなかった。王妃は王の色狂いを容認していたし、子供達を排斥しようともしなかった。何故なら、王妃は王を操り、だれも彼女に逆らったりしなかったし、王妃の子が王太子であったけれど、お追従を並べるものはいても、非難するものなどいなかったからだ。
サシャ様が習えることといえば、神殿の神官並みの語学と数学、天文学。音楽は歌も楽器も何でも嗜まれた。
サシャ様の素晴らしさを讃えたいが、ここはベランジェ高大神官様のいう無害な王子である必要があるのだろう。
「ならば、この容姿はどうだ? 銀の髪、紫の瞳、母親は神殿の姫巫女として素晴らしいカリスマだったそうだな――。そんないつでもこの国の旗印になれるような王子を、呑気に開放出来るとお前は思っているのか――?」
「ですが――、私が責任を持って、人のすくない田舎にでも隔離いたします」
「そして、母に似た王子を愛人にでもするつもりか?」
「私は――! サシャ様には生きていてほしいだけです」
将軍が引くことはないと、ベランジェ高大神官様もわかったのだろう。苦しそうに息を吐いた。
「生きていればいいのだな――?」
「生きて、幸せになって欲しいのです――」
「なら、安心しろ。この王子は俺のものにする。それなら、兄上も命を奪おうとはしないだろう」
ベランジェ高大神官様の元で心穏やかに過ごせるはずだったサシャ様だったけれど、将軍にその機会は奪われたのだ。
俺のものとは、サシャ様をモノとして扱うということだろうか。
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