主の危機です

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「それでは、サシャ様が――。あまりに不憫です」  ベランジェ高大神官様は、魔物を無に帰す神力もお持ちで神殿では早いうちから高い地位をお持ちだった。生まれもサシャ様ほどではないとは聞いたが高貴な出だという。その彼が、自らの恥もプライドも何もかもを捨てて、将軍の前で膝をついた。頭を擦りつけるようにサシャ様の行く末を案じる姿に、流石の将軍も言葉を失った。  サシャ様が、将軍の手を解き、ベランジェ高大神官様の前に膝をつく。  優しいサシャ様は、ベランジェ高大神官様の姿を見ていられなかったのだろう。もしかしたら、そんな価値は自分にないと思われているのかもしれない。 「ベランジェ高大神官様・・・・・・。私を守ってくれてありがとうございました。ずっと勝手に父のように思っておりました。婚約者だった母を奪った国王の子供だというのに、貴方は私を・・・・・・子供のように、愛してくれましたね。私は、この将軍閣下の元に行きます。大丈夫です、命を絶ったりしません」  サシャ様は、ベランジェ高大神官様を慕っていた。特に母君が亡くなれてしまってからは、心の支えのような存在だったのだ。けれど、自分の血が彼の最も憎むものであったからだろうか、ベランジェ高大神官様が自分を大事にしてくれているとわかっていても自分を誇示されることはなかった。   「サシャ様――。私は、国王を許せなかった――。でも貴方だけは幸せになって欲しかったから」  彼の復讐は終わったのだろう。その顔は憑きものが落ちたかのように厳しいだけだった眉間の皺が少し減っていた。 「ベランジェ高大神官様・・・・・・。私は、幸せです。貴方の気持ちに嘘がないことがわかっているから――。だから、残ったもの達をよろしくお願いします。末席だとはいえ、王族としての最後の願いです」  サシャ様は、王族という言葉を使った。無くなってしまった国の王族・・・・・・。 「わかりました。国に残ったもののために出来うる限りのことをしたいと思います」  ベランジェ高大神官様は、復讐とともに命の灯を消されるつもりだったのかもしれない。自嘲気味にサシャ様の願いを聞き、飲み込む様に、サシャ様の唯一の想いを受け取ったのだ。
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