主の危機です

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「ララ、逃げていいんだよ」  サシャ様の声は、私を気遣って下さる。昔から何もかもを諦めてきたサシャ様の声は、もはや天使のようだった。 「サシャ様、私は貴方のいかれるところが敵国であろうと、遠く空の彼方であろうとも、お供させていただきたいのです」  逃げたくない――。この神殿にひっそりと咲く美しく優しい第五王子を捨ててなんて。  三日前から、宮殿は敵の国の恐ろしい将軍に攻められていた。神殿には、ほとんど人は残っていないだろう。 サシャ様の父王である国王は、暗君として名高い。色に狂って手当たり次第の女性を奪い去り、サシャ様の義母である王妃は王を諫めるでなく、反対に国民から搾取の限りを尽くした。隣国に蹂躙されなくても、後数年でこの国は瓦解しただろう。    サシャ様の母親である神殿の姫巫女様は、その珍しい容姿を王に珍しがられて、召されたという。母と同じ銀の髪に紫の瞳の王子は、姫巫女様が亡くなったと同時に神殿に引き取られた。  神の教えは、自害を許されない。サシャ様は、自らが捕らわれれば死ぬだろうと覚悟をされている。私もお供するつもりだ。私が自害をしないのは、サシャ様が神の身元に召される時に一緒にいくためだけだ。  どんな恐ろしいことがあっても、耐えてみせる――。  サシャ様はともかく、私の身体は女だから酷い目に合されるかもしれない。世間知らずのサシャ様と違って、私はわかっている。  それでも、この身をと心を救って下さった天使のようなサシャ様のために、私は残ることを決意した。  まさか――、まさかあんなことになるなんて・・・・・・。私には思いも寄らなかった。  私が・・・・・・、サシャ様の足枷となってしまうなんて――。  隣国の将軍は、変態だったのだ・・・・・・。
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