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「サシャ・ヴァレール第五王子殿下、オリバー・マティウス閣下の命により、貴方を捕らえさせていただきます」
腐り切った我が国を滅ぼしにやってきたのは、大国ブラウンフェルス。表の神殿はともかく、私たちがいる奥の神殿には、既に人はいない。高大神官様の命により、戦うために集められた人々のほかは、ほとんど逃げてしまった。
サシャ様は、既に自身の命を諦めているようだった。
神殿を包囲した後、敵国のオリバー・マティウス将軍の副官である男が、サシャ様の姿をみて、息を吐いた。わかるわかるわ。サシャ様は美しい。銀の髪はサラサラで光を反射したときには魔法かと思うほど眩めくのだ。サシャ様の瞳に見つめられたものは、一人の例外なく、口を開けて呆ける。
感情の制御を訓練された男ですら、吐息を漏らすのだから、罪な人だ――。
「そうか――」
とはいえ、その男はサシャ様を害するために来たことは確実だ。私は、全身全霊を込めて、『もげろ!』と祈った。私に力があれば、いいのに――。
「この子は神殿に仕えているだけの子供だ。王族でもまして貴族でもない――。命は助けてやってくれないだろうか」
サシャ様は、自分のことよりも私のような身分もないただの召使の女の命乞いをしてくれた。もう、それだけで、私の生きてきた意味があるというものだ。
「ララ、逃げていいんだよ。私と違って、君はここにいないといけないわけじゃない――」
「サシャ様、いいえ、ララはサシャ様が殺されてしまうというのなら、一緒に参ります」
逃げるならとうに逃げている。私は、小さな弟と一緒に逃げてきた先でサシャ様に出会った。弟は、サシャ様の祈りもむなしく、短い命を終えた。泣き崩れた私を慰めてくれたのは、サシャ様だった。それからサシャ様は、私を妹のように接してくれている――。
「ララ・・・・・・」
思わず零れたという感じの嬉しそうなサシャ様の声に、男は水を差す。
「あと僅かな命の灯です。多少のおしゃべりは許しますが――」
わざわざ恩に着せようとする男に私はカチンときたが、サシャ様は、「感謝する――」と心から感謝の言葉を述べるのだ。
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