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パチン! と音がしたと思ったら、腕を掴まれて引き倒された。
「キャ――! いやっ」
遠く消えかけていた記憶が蘇って、私は悲鳴を上げてしまった。
ふかふかの絨毯だから痛くはない。けれど、両手を後ろの男に、蹴り上げようとした右足を黒い髪の男に、足の間に迎えに来た嫌な男が左足を掴んでいた。
「やめっ、止めてください――。まだこの子は子供なんです」
サシャ様は、私をいつも子供のように言う。確かに私は栄養状態がよくなかった小さい頃のせいか身体は小さく、未だ十四か五くらいに見られる。ブラウンフェルスの男がどうかはわからないが、アンブローア国では幼子を性の対象に見ることは秘めごととされている。ないわけではないが、表立ってそういう趣味をひけらかすことは地位のあるものには致命傷なのだ。
暗君であった国王が本当の女好きだったからかもしれない。国王の中で、子供は女には含まれなかったのが唯一の救いだったのだ。
「こんな小さな女に俺達のモノが入るのかね」
「可愛がってやりますよ」
ねっとりした言葉の意味を察して、身体が震えだす。
怖い――。怖い――。こわい・・・・・・。
目を閉じたいが、閉じるのも恐ろしかった。
「お前が――、選べ。自らの身体を差し出すか、侍女か、何だかはわからなんがその女の身体を差し出すか・・・・・・」
・・・・・・サシャ様が私を見た。私を心配している顔だ。
大丈夫、怖くない――。弟のために、身体を差し出したことだってあるのだ。サシャ様のためにこの身体を捧げるなんて・・・・・・出来ないわけがない――。
一度目を閉じて、身体の底の恐怖を飲み込む。震える手の拳を握りしめると、落ち着いた気がした。
「私は大丈夫です。こんなことはよくあることです。初めてじゃないんです。だから、サシャ様は目を瞑っていてください」
腕を拘束していた男の力が緩んでいたから、右手だけを自らの意志で目の前の男に差し出した。正面にいた男の顔が一瞬ゆがむ。
愚かだと思われているんだろうなと想像できた。
でも人は、正しいことのためだけに、自分のことのためだけに生きているわけじゃない。人生で一度や二度、もしかしたら三度目だって、人から見たら酷く滑稽に見えることのために命をかけるんじゃないだろうか。
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