主の危機です

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「ララ・・・・・・」 「侍女は、慣れているそうだ――健気というか馬鹿というか」  私を見つめるサシャ様の表情に、私がしたことが反対の効果を及ぼしてしまったことを知る。サシャ様は、将軍を見上げてアンブローア国の神殿では周知のことを告げた。 「待ってくれ――・・・。先に言っておく。私の身体は呪いが掛かっている。私を無理やり抱こうとすれば・・・・・・、その・・・・・・勃たなくなる・・・んだ」  呪いじゃない――。祝福だと言うのに、サシャ様はそう言った。確かに征服する側からしたら呪い以外の何物でもないだろう。  将軍の幕僚は、視線を少し彷徨わせた後、嘲笑うような表情を浮かべたものと、真摯に受け止めたのだろうものに分かれた。 「無理やりじゃなければいいんだな。それなら簡単だ。お前が望めばいい――。その女の代わりに、俺に抱かれたいと望むんだな――」 「私は平気です。サシャ様」  私は、平気だ。こんなことは、大したことじゃない。私は、サシャ様さえ生きているなら、どんな泥だって啜る覚悟はできている。心を裏切る腕の震えは、サシャ様が気付きさえしなければ、それでいい――。  正面に立つ男が服の胸元を握る。縦に引き裂く音がした。私は、絶対に負けたくない。絶対にサシャ様を守ってみせる――。  私の気持ち一つでサシャ様を護れるというのなら。一人残らず私に触れたらいい。 「やめろ!」 「どうする――?」  いっそ優しい声で将軍がサシャ様に訊ねる。  私は、大丈夫だと、平気だからサシャ様は顔を背けてくれているだけでいいのだと言おうと口を開けた。  男が私の言葉を飲み込む。叫ぶために息を吸い入れた瞬間、口を覆ったのは私たちを迎えにきた男だった。  ブラウンフェルスの男は、身体だけじゃなくて口も大きくて、私の叫びは一言も漏らすことが出来ない。 「私にしてくれ・・・・・・。ララには手を出さないでくれ――」 「どうすればいいか・・・・・・、わかるか?」  目を見開いて、正面の男の口を引きはがそうと顔を捩るが、手を拘束されているために、それすら願いはかなわない。  サシャ様は、私の視界の隅で膝をついた。サシャ様の銀に輝く髪がサラサラと床に流れる。  将軍は、サシャ様を奴隷にするつもりなのか――。  私は正面の男の顔なんて見ていなかった。それどころではなかったからだ。
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