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サシャ様が――。私のことなんてどうでもいいのに、何故――。
目を閉じたら涙が零れた。いくらでも流れるいく涙で、目の前は何も見えない。覆い被さって私の口を塞いでいた男が離れて、私の横にいた男も奥にいた男も手を離した。
私たちには、選ぶ権利などないのだと、改めて知った――。
嗚咽が漏れるのを聞かれたくなくて、顔を下に向けて口を抑える。
バサッと音がしたと思ったら、正面にいた男が私に自分の外套を掛けてくれた音だった。
私の服を破いて、外套を貸すというのが男にとっては優しさなのだろうか。意地悪く私はそんなことを思った。
伏せた顔の下で私はサシャ様を見ていた。サシャ様は、私が離されたからか少しホッとしたように微笑まれた。
「随分思い切ったことをするんだな」
サシャ様が、将軍の足元に唇を寄せたことを言っているようだった。
「貴方が言う意味がわからない」
「拘束をといてやれ」
将軍は、サシャ様に反抗の意志がないことをわかったようで、サシャ様を縛るものを全て解いた。
サシャ様は、少し何かを考えているようだった。とはいえ、私もそうだが、サシャ様はあまり眠っていないし、食べてもいなかった。もう直ぐに殺されるのだと思っていたからだが、少々限界が近かったのかもしれない。
周りにいる人々の視線と将軍の視線に居たたまれない風情で、一番上の襟の釦を外し始めたのだった。
この将軍は、最初からサシャ様がどう行動するかわかっていたと思う。その証拠に、私の横にいる男は、口付けまでしたというのに、性的な視線など一つも私に寄越さなかった。
私も言葉が出なかった。どういえばいいのか迷ったということもある。
「何だ、皆の前で脱ぐのか――。流石、色ごとに長けた国は違うな」
「サシャ様は――!」
将軍は、サシャ様が何も知らない初心だということを楽しんでいるようだった。私が我慢出来ずに声を上げた瞬間、横の男が大きな手で私の口を塞いだ。
サシャ様、白く透き通ったその首筋が赤く染まるのを見せてはいけません――。涎をたらしている肉食獣に腹を向けるようなものですと私は言いたい。けれど、見上げた先に男が鼻の先で笑い、『諦めろ』と目線だけで命じる。
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