華に狼、月に暁

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 ギリギリの所で、回避できてると思うんだ。 「はーなーさん♪」 「ピャッ!!」  脱兎の勢いで職場から逃亡した私のすぐ耳元で、やけに明るい声が響いた。  比喩表現ではなく、本当に飛び上がりながら振り返ると、そこには見慣れた同課の後輩の顔があった。 「たったっ……田口さんっ!?」 「いやぁ、華さん、今日も中々の逃げっぷりで」 「今日もって!?」 「ここ最近の課長との攻防は、課一同で楽しくウォッチングさせてもらっています」 「課一同!?」 「いやぁ、あの課長に迫られても中々落ちないなんて、やっぱり華さんは高嶺の花ですね!」 「せまっ……迫られ……迫られって……っ!!」  課長とは、佐藤さんのことだ。  平凡な名字のくせに、すこぶる有能な、私の憧れの君。  その佐藤課長の寝顔を覗き込んだあの日が、こんな攻防戦の幕開けだったような気がする。
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