華に狼、月に暁

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 左ハンドルのウィンドウが開いて、運転手が顔をのぞかせる。  その運転手は顔と言わず腕まで窓の外に伸ばすと、彼とは反対方向からスルリと私の腰を抱き寄せた。  それくらいギリギリの位置に車は急停車したのだ。 「さぁ、悪い狼さんなんて置いて帰りましょ」 「え……え?」  課長の腕から引き抜かれた私は展開に付いていけずに目を白黒させる。  だけどそれ以上に混乱しているのは、課長の方みたいだった。 「ま、待ちなさい。君は……」  私を腕から引っこ抜かれたままの体勢で固まっていた課長は、ハッと我に返ったように声を上げた。  そんな課長を一瞥した運転手が、溜め息をつきながら一度私の腰から腕を解く。  降りてくるつもりなんだと悟った私は、そそくさとドアの陰になる位置へ移動した。
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