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やっぱり、止めておけばよかった。
今さら会うなんてこと…。
足取りが重い。
自分から連絡をしたくせに、今は後悔ばかりが胸を占める。
ここ、か?
ハガキに書かれた住所と、目の前の白を基調とした一戸建てを見比べる。
手作りらしい木製の表札には
高野 颯人
千春
美空
「はやと…。」呟いた名前と共に、今日一番の後悔が押し寄せる。
その気持ちを振り払うため、目をつむり深呼吸。前を見る。震える指で呼び鈴を押す。
「はい」
「芹沢です」
懐かしい声。聞きたくて堪らなかった先輩の声。
と、勢いよくドアが開けられる。
「芹沢!よく来てくれたなぁ。寒かっただろ?とにかく入って!」
笑顔の先輩が俺の肩をパシパシと叩く。
その時俺は、どんな顔をしていたんだろう? ぎこちなくても、笑顔を向けられただろうか…。
俺が靴を脱いでいる時間も待ちきれないとばかり、「ほら、ほら!」と先輩が手招きする。
「お邪魔します」
何でもない挨拶が出来たことに、ほっとする。
リビングに通されると
「カミサンの千春と娘の美空(みく)」
「初めまして。今夜はゆっくりしていってくださいね。ほら、美空ちゃん。パパのお友だちにご挨拶は?」
小柄のかわいい女性、千春さんが笑顔で俺を迎える。
その後ろに隠れるようにして、小さな女の子が俺の顔を見ている。
ああ、本当に結婚したんだ。
父親にもなっていたんだな……。
俺がもがいている間も、時間が過ぎていったことを再認識させられる。
……だけど今日から、今この瞬間から、俺も一歩を踏み出すんだ。
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