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「俺……
あの時は、先輩を自由にしてあげよう。
好きな人のところに行かせてあげようって思っていたけど……」
先輩が黙ったまま俺を見た。
「今思うと、
本当は怖かったんだと思う。
先輩の側に居続ける事が」
「……どういう事?」
「先輩は千春さんの事を想っているのに、俺がずっと側にいたら、どんな顔をするようになるんだろうって。
心はとっくに離れているんだから、いずれ俺は先輩にとって、ただの重たい荷物になってしまう。
そんな俺を、どんな顔をして先輩は見るようになるんだろうって」
今なら分かる。
彼が『もし先輩に好きな人がいたら、次の日はどんな顔をして俺を見るんだろう』って言った意味が。
「……なあ、さっきの『ふざけるな!』って言ってくれた先輩って大石だろ?」
「その通り!
先輩は記憶力がいいですね」
俺はニコッと笑って先輩を見た。
「当たり前だろ。
ながーいお説教喰らったんだから」
そう言って先輩は苦笑した。
「大石に怒られたよ」
先輩は今度は真面目な顔をした。
「何でセリから言わせたんだ!って。
他に好きな人が出来たのはしょうがないとして、何で正直に言ってあげなかったんだって。
セリはお前の側にいて、お前が心変わりしていくのをずっと見ていたんだぞ。
それがどんなに辛い事だったか考えた事あるのか?
って」
冷たい夜風が俺と先輩の間を吹き抜けていった。
「俺
先輩が『好きな人が出来た』って正直に言ってくれるのを、ずっと待っていた……」
「うん……。
俺が千春の事を好きだって認めなければ、お前との関係が壊れる事は無いって勝手に思い込んでた。
お前の気持ちも考えないで……。
本当にお前には辛い思いをさせたな。
……ごめんな」
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