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先輩は立ち止まり俺の目をしっかりと見ると、
「ずっとお前に謝りたいって思っていた。
お前だけを見ていくっていう約束を破って。
一人きりにさせてしまって。
本当にすまなかった。
ごめん」
「先輩……」
「あのラケットがドアに掛けられているのを見た時から、とにかく、
どう言っていいか分からないけど、
お前に謝らなきゃって。
俺から電話しても出ないかもしれないと思って、LINEとメールで“どうしても電話して欲しい”って送って……。
だけどお前から連絡が無かったから、読んでないのかもって思って、直接電話して、留守電にも用件を入れたけど…。
何度かけても、お前が出てくれることは無かった。
当たり前だけどな……」
大通りを渡り、繁華街に入ったところで立ち止まっている俺達を、人々が不思議そうに一瞥し通り過ぎていく。
「そのうち全くお前と連絡がとれなくなって。
それだけ俺がお前の事を傷つけたんだって思い知らされたよ。
でも……山下達には連絡をとっているんだろうって思っていた」
「……先輩、歩こう」
沈みそうになる気持ちを、駅に向かって歩く事で紛らわそうとしたんだ。
「……そうだな」
先輩はそう返事をして、俺と駅へ向かって歩き始めると話を続けた。
「二次会で山下に『セリは元気?』って聞いたら『先輩もアイツと連絡がとれないんですか?』って言われて……。
初めてお前が周りと全く連絡をとっていないって知ったよ」
「…………」
「それもやっぱり……
俺のせいなんだろうな……」
「…………」
そのまま無言で歩いていた。
人の流れが一方向に向かっているのが増えてきて、視線の先に駅が見えてきた。
「LINEもメールも読まなかった」
俺がポツリと呟くと
「……そうだよな」
先輩も小さな声で呟いた。
駅がもうすぐの場所まで来ていた。
俺は時間を確認すると、シャッターが閉まっている近くのデパートの軒下に「先輩」と言って目配せした。
そこは周囲に誰もおらず、先輩とゆっくり話が出来る最後の場所のように思われたからだ。
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