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デパートの軒下に先輩と並ぶと、俺はゆっくりと話し始めた。
「先輩のことが、本当に大好きだった。
ケンカしても離れて生活することになっても、俺が先輩のことを嫌いになることはなかった」
「……うん」
「先輩に好きな人が出来たって気づいてからも、『彼女のことが好きだ』って言われてからも……
先輩のことが、好きだった」
先輩のアパートの近くで二人が一緒にいるところを見た後でさえ……。
「先輩の声を聞いたら、気持ちが離れられなくなるって思った。
好きというやり場のない想いを、ずっと抱えてしまうって。
だから先輩のことを諦めるために、携帯から先輩の名前を消去したんだ。
思い出も一緒に消えることを願って。
だけど……
あなたを忘れることは出来なかった。
……洋輔達と会えば、必ずと言っていいほど先輩の名前が出て。
忘れたいのに忘れさせてくれなくて。
だから俺の周りから先輩を思い出させるものは、全て遠ざけたんだ」
俺の話に「そうか……」と言って先輩は俯いた。
俺達の前を色んな人が歩いている。
腕を組んで幸せそうな恋人同士、肩を組んで笑っている仲間同士、会社員の上司と部下……。
俺達は恋人同士ではなく、仲間同士でもない。先輩と後輩と言うには色々ありすぎて。
中途半端な距離にある。
「芹沢……」俯いたまま小さな声で先輩が俺を呼んだ。
「はい」
「……俺はお前に何か与えてあげられたのかな?」
「え?」
「何か一つでも俺と付き合って良かったと思うような思い出を、お前に分けてあげられたのかな?」
先輩は下を向いていて、その声は小さくて。
いつもの自信に満ち溢れた面影を感じられなくて……。
「俺と付き合った事を……
後悔したんじゃないか……?」
そんな言葉を口にする先輩に、切なくなり胸が締め付けられた。
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