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「思い出はたくさん貰ったって、あの日言いませんでした?」
「……そうだったな……」
「先輩。
覚えてる?」
俺は俯いている先輩を見つめた。
「先輩が合格通知書を見せてくれた日。
約束したのに先輩はなかなか来てくれなくて」
「……ああ。俺が寝過ごしてしまって。
寒い中、お前はずっと待っていてくれたな」
先輩が顔をあげて、苦笑しながら俺を見てくれた。
「あの時、俺の冷たくなった手を先輩が両手で包んでくれて……。
それが本当に温かくてさ。
心まで温かくなったんだ。
あなたを好きで良かったって」
「芹……」
「先輩とアイスを食べた事も、みんなで花火をした事も、テニスを教えてもらった事も、初めて先輩と身体を重ねた日の事も、俺には先輩がくれた全部大切な思い出で……。
先輩が抱きしめてくれると、すごく幸せだった。
別れた日に『ずっと側にいて』って言われた事でさえ、俺には宝物なんだよ」
目の奥が熱くなっていた。
「芹沢……」そう言った先輩の目も潤んでいるように見えるのは、気のせいだろうか……。
「でも一番の宝物は先輩が俺の事を『絶対無二の親友だ』って、千春さんにも言ってくれた事だよ。
俺、本当に先輩の親友で、尊敬される男だって自惚れていい?」
「当たり前だろ。
お前は俺にとって、一番大切な親友だ」
先輩が笑顔を向けてそう言ってくれたから、今があの言葉を言う時だと思った。
「先輩が俺に『親友として付き合っていきたい』って言ってくれたから、時間はかかったけど、あなたに会いたいって思ったんだ。
ずっと伝えたかった言葉があるんです」
「俺に?」
「ええ」
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