月に叢雲 花に風(つきにむらくも はなにかぜ)

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月に叢雲 花に風(つきにむらくも はなにかぜ)

ここはご存知、絆愛高等学校。 “漢たるもの、常に己を磨き、己の限界を超えるべし”の信念のもと、堕落しきったこの時代、真の漢(おとこ)を目指す熱き男達が、日々血と汗を流しながらも、更なる高みを目指し清廉潔白かつ豪への道を歩んでいく全寮制男子校。 一つ、人の道より漢道 二つ、褌のゆるみは漢道のゆるみ 三つ、未来永劫漢道 真の漢は一日にして成らず! 絆愛にかかわる全ての人間が、細胞の一つ一つに至るまでねっちりと刻みこみ、緩み弛んだ褌をキュッキュと締め直し、尻の穴をさらに引き締め、今日も更なる高み“霊長類の頂”を目指す。 ・褌のゆるみは男気のゆるみ ・褌の汚れは男気の汚れ(けがれ) ・褌の乱れは男気の乱れ 出典『絆愛の心構え』“褌三規範”より 長雨のある日――― 「……雨で暇だのう」 不意に校長室から職員室へとやって来て、手に持った湯呑みのお茶(校長仕様で一般人には危険)を飲みながら、窓の外で激しく降る雨を眺め、大田原校長がつまらなそうに呟いた。 職員室内は雷に打たれたような衝撃と、バケツをひっくり返したような騒ぎに。 「ヤバイ!久々の“思いつき”がありそうな空気……」 「えぇ~っ…試験前に困るでおじゃる」 「雨の中で泥相撲なんてベタな展開にはならんだろうが……せめて洗濯に影響しない範囲にしていただきたいものだ」 「ああ、部屋干しにも限界があるからな。これ以上、腐った魚より酷い臭いはごめんだ」 ひそひそと先生方が頭を突き合わせる中、絆愛らしい空気を読まない・読めない先生がいるもので…… 『何かイベントはいかがかと?』と、兎の尾のような前髪だけの髪を、颯爽と派手にかき上げ、白い歯を光らせた。 「うむ……何もない日には不自然ゆえ、毎度のごとく、絆愛らしい日があればのう…」 それを聞き、誰もが心の中で呟いた。 『絆愛らしい日って、褌の日以外でいったいいつ?』 教師たちは慌てて絆愛七曜表を見る。 「決まりじゃ~!!」 だが校長が誰よりも早く吼えた。
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