女性とは、至極難儀な生き物だ

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別れではない。これからも、同じ会社にいる限り、顔は合わせるし、まして同じ部にいれば一緒に仕事をすることもある。 だから、本当の意味での“別れ”ではない。 それだけが、今の俺を支えていた。 そして、慢心していた俺を叱咤するかのように、その辞令は突然降ってきた。 「どういうことですか」 「書いてあるまんまだよ。お前から本人に伝えるか?」 「常務、待ってください。どうして、」 「それを訊くのか?」 無意識に握りしめた右の拳の中、紙一枚は簡単に破棄できるのに、この現実は変えられない。 「社長のご意向だ。悪く思うなよ」 自分の保身のことしか考えていない、この目の上のたんこぶに俺はいつも苛立たされていた。それでも、この人はこの人なりに必死に上り詰めてきたことを知っている。 俺だって、保身をはかる。金だって、地位だって好きだ。だから、ついてきた。 「それなら、私も、」 「社長は、不問に付すと言われたよ。お嬢さんを任せる男を降格処分なんて、恥さらしもいいところだからな」 「社長はどちらですか」 「間宮くん、社長はお忙しい」 どこぞの二時間サスペンスの悪役みたいなセリフ。黒幕はコイツだった、みたいな展開が頭に浮かぶ。これで、社長や眞由美さんが拉致でもされていたら、いよいよ本物だ。 「わからないでもないよ」 鼻の下を伸ばし、品とは遠くかけ離れた笑顔を貼り付ける。存在自体がセクハラのように思えてならない。俺には、いよいよ組織人の資格がない。 「そりゃ、誘われたら行くよなあ。断る理由がないもんなあ」 「加賀くんといえば、秘書課の中でも華々しかったもんなあ」 その口調が俺の神経を逆撫ですることに、早く気付いてほしい。わざとであるならば、早くやめてほしい。やめないというならば、今すぐ消えてほしい。 「責めてるわけじゃない。男なら当然だよ。好みじゃなくても、目の前で脚を開かれたら逆らえない。まして、加賀くんなら気持ちはわかると言って、」 「社長の座ですか」 「は?」 「いりません」 喉から手が出るほど欲しくて、仕方なかったもの。金に、欲に忠実な俺が、どうしても欲しかったもの。なりふり構わずに、それだけを目指してきた。 もうすぐ手に入るというのに、俺は。 「次期社長の椅子は、いりません」 俺は、何をしているんだ。
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