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例えば、こんなことを考えたことがある。
“いつか社長になるのもいい”
大学で学んだ経営学が、驚くほど面白かった。
いつか自分で会社を立ち上げて、世間をあっと言わせる存在になりたい。ゴシップされるような男になりたい。
まだ、社長と出逢う前の俺が、自分だけの力で成り上がろうとしていた俺が、世間の厳しさも知らない俺が、夢を見ていた頃の話。
いつしか“社長になる”という夢は、違った形で現実味を帯びていった。自分の力ではなく他人の力を借りて、そのポジションまで上り詰める。
ゆっくりと、でも確実に物事はその方向に向かっていた。
後藤社長と、眞由美さんと、出逢ってしまった。
金が欲しい。地位が欲しい。女が欲しい。
男だったら、誰だって夢を見る。
いつかの大学の同窓会で、愛する女と一緒にいられれば出世なんてどうでもいいと言っていた男がいる。
嘆かわしかった。張り倒してやれば良かった。一橋にプライドを持てよ、と言いたかった。
俺は、社長の椅子を約束された男だ。それだけの器がある。そうなるためだけに頑張ってきた。
育児は女性に任せたい。だから金のことは心配するなと言いたい。俺が絶対守ってやると言いたい。
休日返上だって上等だ。俺は一生、仕事をする。
そしてそんな俺を支えてくれるのは、由宇じゃない。
疲れた体を引きずって、自宅のドアを開けた時、出迎えてくれるのは眞由美さん。
「お帰り」と言って、笑顔を向けてくれるのは眞由美さん。
用意してくれている晩ご飯を食べて、風呂に入って、眞由美さんを抱きながら寝る。
それが、俺が求めていた日常。
そうでなきゃ、いけない。
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