第一章

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綾子の全体重を支えていた両開きのガラス戸が、内側に開かれる。興奮した佐久間の勢いを受け止め切れなかった。 迫り来る熱血男との共倒れを覚悟した綾子が、反射的に目を瞑った瞬間。 脇の下から腹の前に回された何者かの腕が、綾子を優しく抱き止めた。 「…………ごぁっ」 悲痛な叫びと共に、タイル張りの床に顎を打ち付けた佐久間。すんでの所で救出された綾子は、崩れ落ちる佐久間をスローモーションのように思いながらも、何もすることが出来なかった。 「佐久間先生。ちょっと、強引過ぎ」 綾子の後方から小気味のよい、嘲笑を含んだ声が足元へと落とされた。 咄嗟に振り向いた綾子の目に飛び込んだのは、今まさに自分を抱き寄せる男の端整な横顔だった。 「……弓槻(ゆづき)先生」
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