第一章

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一学期の終了後、教員の間で行われた飲み会の席でのワンシーン。 ネクタイをゆるめ、ほろ酔いに頬を染める弓槻がビールジョッキを片手に綾子に放った台詞。 『なんか椎名先生って、幸せそうに見えないんですよね』 『……』 『とびっきりの美人で、安定した職も、送り迎えしてくれる優しい彼氏もいる。世の女性が欲しいもの全て持ってるってのに……、なんでそんな悲愴感漂っちゃうのかなー?ははははっ』 あの時の弓槻の高笑いが忘れられず、綾子はそれから鏡を前に笑顔の練習を繰り返した。 それでも、拭いきれない哀愁。 原因はわかっていた。 満たされない夜の欲求。 上部だけは良い恋人を演じる祐司に、一年間抱かれていないというその事実が、仮面のように綾子に張り付いて剥がれない。 先月三十路を迎えた綾子。結婚を焦る気持ちもまた、一つの要因だろう。
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