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「ええっ!?じゃあ、先生は床を這いずってるって訳?」
「ま、毎日じゃありません!調子の良い日には一つ目で起きられます」
「……へぇ。俺もやってみようかな」
「ぜひ」
綾子に言いくるめられる形ではあるものの、桐生の胸にはほんの僅かな希望が生まれていた。
欠点など無いと思っていた担任教師が、羞恥をさらしてまで自らに助言してくれた。それが、桐生には嬉しかった。
「じゃ、先生。遅刻届け書くから職員室まで一緒に行こっか?」
「……どうやら、私の時計は進んでいたようです」
「ええ?そんな事無いでしょ。だって、携帯の時計ももう二十……あ。もしかして、見逃してくれるの?」
綾子はゴホンッと咳払いを一つ、桐生に背を向けた。
「サンキュ!明日は絶対に遅刻しないからねー!」
校門を最後まで締め切った綾子の背後で、どんどん遠ざかってゆく桐生の声。
全く、もう。調子が良いんだから──
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