白い太陽

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深紅のマントを翻し、マントよりも更に深い暗赤色の血糊のついた剣を振り払った。 任務完了─── 月が変わったばかりであるが、これでもう7件の依頼を果たした。 腰まで届く褐色の髪を片手で押さえながら、ピクリとも動かなくなった死骸を冷ややかな青い眼で見下ろす。 荒ぶれた殺戮者、海の王者・タコ入道様は、20メートルにも及ぶその巨大な体躯を、蒼白い月明かりに照らされた砂浜に、難破船の如く埋めていた。 さきほどまでの喧騒が嘘であるかのように、真夜中の海辺は静寂に包まれている。静かな呼吸を繰り返す黒々とした海には、細く輝く月の道が架かっている。波の音はあくまでも優しい。 タコ入道様の死骸を隔てた波打ち際では、タコ入道様退治の依頼主である貴族階級のカマ=ドウマが、たったいま目の前で繰り広げられた残虐なる死闘に、その巨大な腰を抜かしていた。ブクブクに膨れ上がった醜い巨体、月見だんごのような真ん丸の顔は汗だくである。 この不様な依頼主の姿に、剣士・ヴェルカパルドゥビツカは、その秀麗な眉を寄せた。 「よ、よくやった、ヴェルカパルドゥビツカ」 カマ=ドウマは息も絶え絶えに、だが依然、特権階級であるというちっぽけなプライドをどうにか保ったまま、ヴェルカパルドゥビツカに労いの言葉をかけたが、声は二度三度とひっくり返った。 「う、噂に違わぬ最高の剣士、であることが、これで、しょ、証明されたな。私が雇ってやっても、いいぞ」 上流階級の者たちは、いずれも剣士を雇っている。広大な自宅の警備と己れ自身の用心棒、そして、秘密裏に行う暗殺の為である。 雇った剣士の腕前が、一種のステータスであり、また雇われる剣士にとっても、雇用主は金持ちであればあるほど箔がつく。 この真ん丸なカマ=ドウマは、呆れるほど小さい男だが、金持ちという点では言うことがない。だがヴェルカパルドゥビツカは、またもや眉間に皺を寄せた。
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