白い太陽

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ヴェルカパルドゥビツカの、その僅かな表情の変化を、カマ=ドウマの小さな目は見逃さなかった。怪しい雲行きに、ごくりと唾を飲み込む。 「この私が、雇ってやると、い、言っておるというのに……」 カマ=ドウマの、独語にも似た呟きに、ヴェルカパルドゥビツカは舌打ちした。 「報酬が不満か」 タコ入道様は、年に数回、産卵のため海岸に現れる。涙を流しながら産卵する苦痛に耐え忍ぶため、産卵の前には人間を喰らい精をつける。 産卵する時期も場所も不定であり、また波打ち際まで、その軟体を駆使し、まるで忍者の如く身を隠したまま近付くので、いくら見張りをたてたところで、犠牲者は後を絶たない。 そうした、悪魔のような怪物を見事仕留めたのだ。カマ=ドウマは、既に時給も報酬額も相場以上を提示していたが、この類い稀なる剣士を繋ぎ止めておくには、まだまだ足りぬのやもしれぬ。 「さ……3時間4万円、延長あり……」 さすがの富豪でも、額から嫌な汗が吹き出す金額である。これ以上は、逆立ちしようがうでまくりしようが、いくらなんでも無理である。 ヴェルカパルドゥビツカの氷のような瞳が、不意にカマ=ドウマを捉えると、低く、深い声で、めんどくさそうに言い放った。 「──舌あり」 なんと。 カマ=ドウマは、世界ががらがらと崩れていく音を聞いた。 破格の報酬のみならず、伝説のヤギ神の舌までも所望か。なんと傲慢で、自信家なのだ。 しかし、と、流れ落ちてくる汗に目をしばたたせながら、カマ=ドウマは考えを巡らせる。ヴェルカパルドゥビツカは、最高の剣士としてその名を馳せている。これまでは、誰とも契約をせず、単発の仕事で報酬を得る、フリーランスの剣士であった。 その剣士を、もうすぐ我がものにできる──が、あり得ない報酬金額と、ヤギ神の舌まで差し出す価値が、果たして本当にこの男にあるというのか。
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