白い太陽

4/6
前へ
/7ページ
次へ
海辺にたゆたう空気が、濃紺から群青へ、厳かなる変奏曲を静かに奏でていた。 夜明けが近い。 雇う者と雇われる者。 報酬を払う者と受ける者。 名誉を手にする者。 誇りを手にする者。 大金を手にする者……。 相対するふたりの視線は静かに絡み合い、自然のいとなみに溶け込むかのように、その呼吸すら、波音と同調し、透明な蒼い世界に不気味な影を落とす。 最初に動いたのは、ヴェルカパルドゥビツカだった。ばさり、と大袈裟にマントをはためかせて踵(きびす)を返すと、優雅ともいえる足取りで、その場から離れていった。取り残され、あんぐりと口を開いたまま座り込んでいるカマ=ドウマを、一度たりとも振り向くことはなかった。 己れが欲するのは金ではない。 己れが欲するものはただひとつ。 剣士としての名誉である。 たとえいくら積まれようと、たとえどれだけの特権階級者に雇われようと、そんなものに価値は見出せない。己れの剣、それのみで、もっと高みを目指すのだ。 ヴェルカパルドゥビツカは次第に色彩を取り戻していく街なかを、迷うことなく歩き続ける。 空が金色に染まった。白い太陽が、闇を押し退けるかのように姿を現した。 まだ寝静まっている街の石畳の道に、ヴェルカパルドゥビツカの靴音が規則的に鳴り響く。 ふと、音がやんだ。 ヴェルカパルドゥビツカは、蔦が複雑に触手を伸ばしている荘厳な門を前に立ち止まった。 まだ早朝であるというのに、ヴェルカパルドゥビツカの姿を認めた守衛が、門に走り寄る。 「お帰りを、お待ちしておりました、ヴェルカパルドゥビツカ様」 騒々しく金属音を響かせて、守衛はまどろっこしい手つきで門の鍵を開ける。 重く、錆びた音をたてながら、門が開かれた。 ──ヴォクスブルグ闘剣士養成所。 国内でも最高峰の剣士養成機関である。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加