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「……なあ」
「ん?」
「寒い」
「起きて服着ろよ」
「……抱っこ」
「ハァ?」
子供みたいなおねだりだと、アイツの鋭い目が呆れる。それでも起きないでいると、諦めたように大きな溜息が落ちた。
「しょうがねえなあ」
アイツは少し上掛けを捲ると、足からベッドの中へ入って来た。
回される長い筋肉質の腕に、合わされる胸。俺がアイツの腰に足を絡めると、穿いているジーンズの固い感触が内腿に当たる。
アイツは上掛けで俺をくるみ、額に啄むようなキスを落とした。
「ハイ、これで良いか?」
「ん。温かい」
「寝るなよオイ。今夜も仕事あるんだろ?」
「ん」
「ったく……雨の日はいっつもこうなんだから」
そう困ったようにアイツは呟いて、俺の伸びかけた髪をゆっくり指で梳く。服ごしに伝わる体温が心地良くて、嗅ぎ慣れた匂いに目を閉じた。
寒い雨の日には、こうして甘えたくなるんだ。だから温まるまで、このまま暫く居させて。
せめて、この雨が止むまで。
(了)
次ページはあとがきです。
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