第11章 最後の嘘

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「自己採点表、持ってる?」 そう聞かれて、かばんからシートを出した。空欄の多いその解答表を一瞥して、けいちゃんは苦笑いする。 「全然出来なかったんです…」 「実力は十分に出せなかったみたいだな。全体の正答率7割以下ね…」 さーっと得点と正答率を計算して、けいちゃんはあたしの過去の模試の結果とか、志望大学の合否判定表なんかもテーブルの上に出してきた。…やっぱり本命は厳しい。あたしのセンターの得点だと、合格確率30%以下だ。 滑り止めの私大だと、お金掛かるよなあ。お父さんたちに、また負担かけちゃう。でも、志望校のランクは下げたくない。どうしよう。 タイムマシンはない、って、けいちゃん言ってたみたいだけど、やっぱり欲しい。やり直したい。頑張っても追いつけなさそうな現実を、けいちゃんに目の当たりに突きつけられて、つい現実離れした方向に、想像が走っちゃう。 「どうする? も、大学諦めて、俺のお嫁さんで、一生家にいる?」 「や、やだっ」 「何が嫌?」 「大学も、けいちゃんも。どっちも諦めたくない」 あたし、みつきさんよりよっぽど、我儘で欲張りだ。 「じゃあ、どうする?」 「けいちゃん、意地悪」 「この場では、『先生』って呼べ、春日」 手にしてたボールペンで、机をコツコツ叩きながら、けいちゃんは冷静にあたしを窘めた。プライベートな話にまで言及したのは、けいちゃんなのに。しっかり自分だけ『先生』ぶってる。 どうする? どうしたい? 決めるのは、けいちゃんでも遠藤先生でもない――あたし。膝に置いた手で、ぎゅっとスカートを握りしめた。
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