第11章 最後の嘘

3/37
前へ
/37ページ
次へ
「今度はあたしも行きたいな」 と言うか、行かないといけないよね。けいちゃんのお父さんやお母さんだって、当然、息子が結婚したい、って言ってる女がどんな女か知りたいに決まってる。 でも、けいちゃんは急に焦り始めた。 「いや、まあ、どうせ今度顔合わせとかする時に会うし、無理して千帆がこっちに来る必要はないよ」 「え?」 けいちゃんの思わぬ反応。あたしが、行っちゃまずいことでもあるのかな。 「千帆はそれより、受験勉強最優先にしないと」 「けいちゃん、いつ帰ってくるの?」 「2日かな?」 そのあともけいちゃんは、『行きたくないなあ…』と、2、3回ひとりごちてた。自分の家なのに、帰りたくないなんて変なの。 3日前のけいちゃんとの会話を思い出してたら、またスマホがピカピカ光りだす。ピンクのライト。けいちゃんからだ。 「ち~ほ~? あけまして、おめでとう。今年もよろしくね。勉強、頑張ってる~?」 新年最初に聞いたけいちゃんの声は、めちゃくちゃロレツ回ってない。張り詰めてたやる気が、一気にふにゃりと折れていく。担任の教師が、生徒のやる気削いでどうすんの。 「けいちゃん、酔ってる?」 「酔ってない酔ってない。ちほちゃん、怒った声も可愛い」 「めっちゃ、酔ってるね」 「あ~、そっかな。缶ビール2本と焼酎のソーダ割り2杯と、ワインちょっとくらいしか、飲んでないけど」 「…十分だと思うんですけど」 「あはは、お正月ってことで」 「彼女のあたしは、暮れも正月もなく、机に向かってお勉強してるのになあ」 「はい、そうですね、すみません、ちょっと浮かれすぎました」 チクリと刺すと、急に神妙な声になるけいちゃん。もう、実家に行きたくない、なんて子どもみたいなダダこねるから、あたし、それなりに心配してたのに。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

272人が本棚に入れています
本棚に追加