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「そっち、どう?」
「うん、神奈川より寒いかな」
「そうじゃなくて…けいちゃん、行きたくないとか、言ってたから…」
「ああ…」
と、けいちゃんが言いかけた時。
「あ~っ、慧史、こんなとこいた。何、逃げてんの、今日の主役なのに」
スマホ越しでも、けいちゃんに誰かが話しかける。
「ちょ、俺電話中だっての」
「え、もしかして彼女? 噂の女子高生? わたしも生の女子高生と喋りたい、貸して貸して」
けいちゃんが通話口を抑えたか離したかしたみたいで、少し遠くなったけど、それでも音声はあたしのとこまで、しっかり届いてた。…勢いのある女の人の声。けいちゃんの…。
「こんばんは~、しほちゃんだっけ?」
「千帆だよ、千帆っ」
「あーそうそう、千帆ちゃん。あけおめで~す、慧史の姉の瑤子(ようこ)です」
お姉さんだったのか。って、突然彼氏のお姉さんと喋るって、難易度高っ。
「こ、こんばんは」
こちらもおそらく酔ってハイテンションのお姉さんに対して、あたしはめちゃくちゃぎこちなく挨拶を返した。
「この度は婚約おめでとうございます…って、身内の言うことじゃないわね。慧史の何処が良かったの?」
「え?」
「いや、姉としては単純に疑問で」
「俺の前で聞く? フツー。しかも、まだ会ったこともないのに」
「ばかねえ、会ったことない相手の方が、遠慮なく聞けるじゃない。やっぱカオ?」
瑤子さんは、けいちゃんに話しかけてると思えば、またあたしに質問を投げてくる。この強引で、人の話し、あんまり聞かないとこ、うーんと、誰かを思い出す。誰だっけ。あ、その前に聞かれたことに答えないと。
会う前から悪印象は植え付けたくない。
「そ。んなことは…いや、カオ好きですけど。でも、それだけじゃなくて、頼りがいあるとことか、頭いいとことか、優しいとことか、そういうの全部ひっくるめて…けいちゃんが、いいんです」
電波の先でお姉さんは、ふふと北叟笑んだような笑いを漏らした。ちょ、直接的過ぎたかな、うわー、激恥。
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