第11章 最後の嘘

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「千帆ちゃん、正直ね」 お姉さんはくすくす笑って、言ってから。 「慧史良かったわね。カオだけじゃないって」 「もういいから、スマホ返して」 「あー、待って待って、あと一言。千帆ちゃん」 「は、はい」 「今回は残念だったけど、今度会えるの楽しみにしてるからね」 あったかい声でお姉さんは言ってくれて、じんわりと来てしまった。はい、ってあたしが返事をする前に、もうスマホはけいちゃんの手に戻ってたみたいで。 「ごめん、千帆」 さっきより数段トーンダウンしたけいちゃんの声が、あたしの耳朶を震わせた。 「ううん。お姉さんと話せて良かった」 「そう?」 「あたし、思ったんだけど…」 「うん」 「けいちゃんのお姉さん、みつきさんに似てるね」 ぐっと言葉に詰まった後で、あー、とかうーん、とかけいちゃんの言葉にならない声が聞こえたから、多分、けいちゃん自身も同じようなこと、思ったことあったんだろうな。 「けいちゃん、シスコン」 「お前今日、きつくない? 台詞の一言ひとことに刺あるよ」 「だって、受験生だもん、今もこれから、また勉強だもん。ちょっとくらいやさぐれたっていいじゃん」 完全八つ当たり。けいちゃんは受け止めてくれると知っての我儘。 「今の俺の弱みは千帆だけだから」 「そーゆー台詞は、酔ってない時に、面と向かって言って欲しい」 「わかった。覚えておけよ、千帆。受験終わったら、砂吐くほど甘いの、いっぱい言ってやるから」 お酒で潰れた掠れた声で言うと、けいちゃんは「初詣、行くみたい。また電話する」と、一方的に、電話を切ってしまった。 酔っ払ってるのに、今の会話、覚えてるのかな…。受験が終わったら、じゃなくて、けいちゃん。 今、会いたいのにな。 数学の文章問題にけつまずいて、考えてる間にいつの間にか、寝ちゃってたみたい。 カチャッ、と外で物音がして目が覚めた。多分、ポストに誰かがなにかを入れた音だ。 …新聞配達?? ?そう思って時計を見ると、まだ1時になる前。こんな夜中に郵便局なわけもないし。 まさか!?と思って、あたしはベッドの奥のカーテンと窓を開ける。家の脇に止めたモスグリーンの車に、けいちゃんがちょうど乗り込むところだった。 「けいちゃん!」 窓から身を乗り出して叫ぶと、けいちゃんが首を真上に傾けて、にっこりと笑った。
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