第11章 最後の嘘

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「起きてたんだ。偉いね、千帆」 いーえ。寝こけてました。でも、そんな不都合なこと、今言う必要ない。 年が明けての初めてのけいちゃんと、こんなドラマチックに会えるなんて。 大好きな映画みたい。 「待ってて、けいちゃん」 あたしはコートを羽織って、焦りまくって階下に降りる。あ、やばい。 しんとなった家で耳を澄ませても、他の物音はしない。良かった、お父さんもお母さんも起きてない。 ちょっとだけ、ちょっとだけ、ごめんなさい。お父さん、お母さん。 心の中で謝りながら、そうっと玄関の戸を開けて、家を出たら、車のボンネットに浅く腰かけて、けいちゃんが待っててくれた。 会えるなんて思ってなかったから、ドキドキして、言葉が見つからないあたしに。 「明けましておめでとう」 けいちゃんは、呑気に言う。あー、なんか拍子抜けする。でも、けいちゃんらしくて、笑っちゃう。 「おめ、でとうゴザイマス。帰ってきてたんだね」 「まだ帰宅途中。年賀状と御守り、千帆の家のポストに入れて帰ろうと思ってたんだ。まさか出てくると思わなかった」 さっきポストに入れたそれは、いつのにかけいちゃんの手に戻ってて、けいちゃんは直接あたしの手に葉書と白い封筒を持たせた。 白い封筒の中には、あたしの知らない神社の御守が入ってた。薄い桜色に金糸で学業成就って書いてある。 「うちの地元のなんだ。高校受験も大学受験も、俺ここにお参りしてうまく行ったから」 年賀状の方は、大きな写真に一言だけ。今年もよろしく。って、ありきたりなメッセージ。
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