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「母様。
洗濯してきたよ。
あ、あときつね拾った。」
母様に声をかけると「はぁ?」とすごまれた。
ほら、こいつ。
と洗濯物を入れた桶からきつねを覗かせると
「……………どうせなら狸が良かったねぇ。
鍋に出来たから。」
と母様は呟いた。
その手に持っている包丁がギラリ、と輝き………
思わず身震いする。
「きつねは食べたら駄目!」
サッ!ときつねを桶から出して、抱え込むと
「冗談に決まってるでしょ、
さっさと洗濯物干しな。」
と言われた。
取り敢えず、狐汁だけは免れそうだ。
「良かったなー、ちょいと洗濯物干してくるから
お前、ここにいろよ。」
きつねを居間の竹座布団に座らせると桶を片手に庭へと出る。
「…………あー、お天道さんが笑ってらぁ」
バサッ、バサッ……と洗濯物を広げるとそれを竿に通す。
毎度、毎度思うのだが、なんでこの竿
高い位置にあるんだろうか。
背丈の低い自分には一種の重労働である。
「……………あ゛ぁー、疲れた。」
なんとか竿を上げ、洗濯物を干す。
疲れたなぁ、と肩をぐるり、ぐるり……
と回しているとふわふわした毛が足首にまとわりついた。
「うん?」
足元を見やれば白い衣をかぶったきつねが、自分の足首にこすりこすり、と顔を擦り付けていた。
「なんだよ、居間で待ってろって言っただろ?」
きつねを抱えると、そいつはしゅん、と首を落とした。
「寂しかったのか?
あ、もしかして食われるとでも思ってた?」
くしくし、ときつねのほほに額をすりつけると
きつねは身を固めた。
あ、ほんとに食われると思ってたんだ。
「食わねぇよ、安心しろ。」
と声をかけるときつねは嬉しそうに鳴き声を上げた。
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