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少しずつ社会性というものを身につける頃でもあります。先生がお仕事でお忙しいのは重々承知しておりますが、どうぞ家庭でも翔大くんの様子を注意深く見守っていただき、スキンシップもたっぷりと取っていただいて親子の触れ合いを大事になさって下さい。その上でお子さんに社会のルールやお友だちと仲良く遊ぶことを教えてあげて下さい。三歳というのは驚くほど色々なことを吸収できる年齢なので、その土台としてお母様の愛情が何よりも……」
またかと思いながらも鷹野の説教を美雨は時々相槌を打ち、黙って聞いていた。人に何かを指摘されたり注意を受けたりというのは元々彼女にとって我慢ならないことだった。しかも自分ではなくて翔大に問題があるならば、本人をその場で叱ればそれで済むはずのことだ。そもそも社会や集団のルールを教えるのが保育園の役割じゃないのか。反論すれば話が長引くので敢えて何も言わないけれど、鷹野の口を封じ込めるためには園に大口の寄付でもすべきなのかしら、とぼんやり考えていた。
「車道に車を止めたままなんだけど」
話の合間に美雨は素早く口をはさむ。
「ああ、そうでしたか。お忙しいところお引止めしまして申し訳ございません。今後ともよろしくお願いいたします」
鷹野がようやく話を切り上げて丁寧に頭を下げてきたので、
「こちらこそよろしくお願いします」
と、美雨も口先だけの礼儀を返した。
「じゃあ、翔大くん、またね」
翔大もバイバイ、と手を振って答える。ようやく解放された、と美雨は安堵しつつ、大人になるというのは本当に詰まらないことだと、改めて感じていた。
翔大と車に乗り込んで発進させたものの、夕方になって道は混み始めており、なかなか思うようには流れていかない。おびただしい車の列に、そして、その中に埋没した駒の一つと化した己に腹立ちながら、
「お腹空いた?」
と、後ろのチャイルドシートを嫌って助手席に座り込む翔大に顔を向けた。
「うん、すこし」
「ママもう疲れちゃったあ。先生にも色々と文句言われちゃうし」
「センセ、なんていったの?」
「翔大がお利口さんじゃないって」
「ボク、ほいくえんでおりこうさんしてるよ」
「そうだよね、先生のほうがおかしいよね。先生は翔大のこと、わかってないよ。変な言いがかりつけられてママ疲れちゃった」
「いいがかりって?」
「何でもないよ。それより今日は
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