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感じ入ったように机から身を乗り出して、その幼い顔をしげしげと眺めた。
「あら、どうかしたの?」
豊の翔大に対する興味深げな様子に、やや美雨は訝しんだ。
「何でもないです。それより今日はどうして……」
「いきなりごめんなさい。そして、先日は心の家に連れていって下さってどうも有難う。これはほんのお礼よ」
美雨は持ってきた紙袋を豊に差し出した。
「いえ、そんな……」
おずおずと豊は腕を差し伸べ、受け取った。
「途中立ち寄って買ってきたシュークリームなの。美味しいと評判の店なんだけど、新庄さんのお口に合うかしら。ドライアイスを沢山入れてもらったから、後で召し上がって」
「はあ、有難うございます……」
先日とは打って変わった、まるで別人のような美雨の態度に、明らかに豊は戸惑っていた。
「ところで今日は一体……?」
豊はもう一度美雨たちにソファーを勧めながら尋ねた。
「有難う。実は……」
美雨はしおらしく目を伏せながら翔大と腰掛けた。
「先日、心の家に行ってから色々と考えたの。余りにあそこが悲惨な状態なものだったから、あたしとしてはさすがに今の自分を見つめ直さざるを得なくなっちゃったのよね」
豊は感心したようにはあ、と目と口を大きく丸めた。
「実はあたし……新庄さんに嘘を吐いていました」
美雨は再び目を伏せて下唇を小さく噛んだ。
「この間あたしには再婚した夫がいてとても幸せだと言ってたけど、本当は夫と別居中なの」
「べっきょちゅうってなあに?」
「翔大は知らなくていいよ。今大事なお話をしてるからこれで遊んでなさい」
美雨はバッグからスマホを取り出し、滑らかな手つきで幼児用のゲームをタップしてから差し出すと、翔大はすぐに夢中になって遊び始めた。
「ごめんなさい。さっきの続きだけど、多分このまま別れることになると思う。実はあたし、夫からずっと酷いDVを受けてきたの。だというのに、先日はつい見栄を張っちゃって幸せだなんて言ってしまったの」
美雨はハンカチを口に当てて嗚咽をこらえる。
「ずっとあたしのほうから別れて欲しいと頼んでいたんだけど、なかなか受け入れてくれなくて……でもようやく夫もその気になったので、明日離婚に向けての話し合いを持つことになったの」
豊は身じろぎもせず軽く俯きながら話を聞いている。
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