転んでも

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「かんそうに注意した方がいいわよ」  …――彼女が僕に忠告する。  今は新緑の季節で梅雨と呼ばれる時期までカウントダウンに入っている。そんな時季にかんそうに注意だなんて用心深いにもほどがあるぜ。確かに俺は寝たばこなんて、しょっちゅうだし、焚き火や花火をやる時に水を用意しない。なので彼女が心配するのも分るけど、それでも今どき、かんそうに注意なんて……。 「注意しないと激しく燃えるわよ。あんたの物件全てがさ」  物件だと。お前は不動産屋か何かか。家と言えよ。シャレじゃないけどさ。家って言って欲しいね。ま、でも彼女も僕が心配なんだろう。だからこそ忠告してくれるんだしね。分ったよ。ご忠告通り、かんそうには注意するよ。これからはきちんと火の後始末はします。寝たばこも極力控えます。  それでいいだろう? 「……分ったよ。火の後始末はきっちりとやるよ。かんそうに注意する」 「本当に分ってるの。燃えだしてからじゃ遅いのよ」 「くどいな。分ったよ。タバコの火種はきちんと揉み消すし、焚き火や花火は水をかけて完全に消えたのかを確認してからその場を離れるよ。これでいいだろう?」 「……何も分ってない」  彼女は僕の答えに不満そうに言う。 「分ったよ。油を使う料理やヤカンと鍋の空だきにも気をつけるよ。とにかく火を使う時は頭の片隅にかんそうに注意と言い聞かせるよ。それでもダメ?」  彼女は黙ったまま、わなわなと震え、俯(うつむ)いている。  何が不満なんだよ。火を使う時、全ての場合にかんそう注意と自分に言い聞かせて火を使うんだぜ。これ以上の用心はないと思うけど、それでもダメなんて、用心深すぎて逆に火を使う事ができなくなっちゃうぜよ。  意味が分らんぜよ。
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