部長

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 山崎 博は憤慨していた。あの今日入部して来たばかりの新人にみんなの前でコケにされたのだ。そう思うと、足音高らかに廊下を歩きながら無意識の内に言葉が零れていた。 「幽霊など居るわけがない」 そんな非科学的で何の根拠も無いものの証明だなんて本当にバカげている。だからこんな検証さっさと済ませて、明日どんな風にあの新人を罵倒してやろうかと思案してやる。今までの様にみんなで居もしない霊を貶し合うのも一興だが、彼の様なバカな人間を見下して罵るのもまた一興だ。彼の悔しさに歪む顔を想像するだけで笑みが零れる。 ふと、夕日の反射で眼鏡の汚れが気になって外すとポケットから眼鏡拭きを取り出して丁寧に拭きながら歩を進めていた。 博はとても寂しい人間だった。毎日毎日勉強にテストに塾、そして家に帰れば家庭教師に付きっ切りで缶詰にされていた日々から逃亡するために作った暇潰しの部活だった。この前の学年テストの順位が三位から五位に落ちた事で母は塾を増やすと言っていた。 「一番でなければ意味がない」 と有名大学の法学部を主席で卒業している母は呆れた様に言った。学校でも友達は出来ず、居たとしても友達と遊ぶ時間すらない。テストの順位を気にせずに学校生活をエンジョイしているクラスメイトが羨ましく、嫉ましい。部活だって本当は入る必要は無いと言われていた。だから僕はたった一人きりの部活を作ったのだ。あの使われていない、小さな教室で。元々は倉庫だったらしく、教室の半分弱程の広さしかない。入って右側に文集とかが並んだ本棚があり、何時も暗幕で閉ざされていて、使われない机と椅子がその窓の前に積み上げられ、埃っぽい個室だった。鍵は開いていた。その時初めて、自分の秘密基地とでも言える、落ち着ける空間を手に入れた気分だった。  最初はあの空き教室で独り言の様に霊の話しをするだけだった。七不思議にあつらえたあの教室で、一人で霊を小バカにしているとストレス解消になる。 「幽霊なんて居ない。そんな非科学的なものバカげている。居もしないものを恐れるような奴は頭の悪い下等生物だ」
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