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それは学校の先生や学校生活が充実しているクラスメイトや両親への鬱憤を全部霊と言う居もしないものに押し付けているものだった。その独り言を偶々、廊下を通りがかった時に最初に耳にしたのが一学年下の石塚だったのだ。あの内気な石塚が、恐る恐る戸を開けて教室を覗き込む姿を今も覚えている。
最初は軽蔑されるかと思った。「根暗な先輩だな」とか思われるんじゃないだろうかと思っていが、彼は自分の言動に共感してくれたのだ。霊など居るはずが無いと賛同してくれて、僕は心強い仲間を手に入れた気分だった。友達も居ない自分を理解してくれる後輩が一人でも居る。それから毎日二人で怪談話をしていると、自然と部員が増えて今では六名になった。同じ話しを理解し合える仲間が居ると言う事はとても嬉しい事だ。只一人、今日入部して来た彼は違う。
「……追い出してやる」
何が目的なのか知らないが、彼は急に部に入って来て霊の存在を肯定した。霊を証明する証拠まで提示すると……とんだはったりだ。悪魔の証明と同じで、そんなもの、証明出来る訳がない。
そうこう考えているとそのうち例の男子トイレの前に来た。拭き終わった眼鏡をかけ、眼鏡拭きをポケットの中へ突っ込むと軽く咳払いをしてトイレの中を覗く。左側の白壁に小便器が三つと、右側に並んだ緑色の個室が同じ数だけ並んでいる。一番奥の個室だけが洋式になっていて扉が閉まった状態になっているが、手前二つは和式なので普段から扉が開いている。昼間でも薄暗くて少し湿気ていて、そんな何時も通りの何の変哲も無いトイレだ。特に変わった様子はないし、自分達だって毎日使っている場所だ。それに、博はこのトイレの個室には以前お世話になっていた。それは部を創設する前で、テストで悪い点を取ってしまった時などはよくココの個室に入って頭を抱えたものだ。何故、あんな簡単な問題を間違えてしまったのだと自暴自棄に陥りながら休み時間の大半をそこで過ごす。その頃には確か、そんな噂は無かった様に思う。まあ、他の事に耳を傾ける余裕がなかったせいかも知れない。だから僕はこの七不思議の二番目が嘘だと知っている。
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