石塚 はじめ

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「……何か心配だなぁ」  溜息混じりの小谷の声が廊下に響くと、石塚 はじめは隣を歩いていた小谷を見つめた。 「そ、そうですよね。ぶ、部長怒ってた、から」  僕はそう声をかけたが、小谷は何も言わなかった。もしかしたらこの時の呟きは部長をさしていたのではなく、別の事を気にかけて発していた言葉だったのかも知れない。それも確かめたかったので、はじめはもう一度確かめる様に涼子に話しかけた。 「ね、ねえ、ちょ、ちょっと様子、見に行か、ない?」 「え、男子トイレに?」  小谷の言葉にはじめは首を横に振る。 「な、中の様子は、僕が見てくる、から。た、多分もう、帰っちゃっただろうけど、ぶ、部長の事、小谷さんも心配してるみたい、だから……」  そう言うと、小谷は何かを考える様な素振りをしていたが一緒に見に行く事になった。どうやら自分の考え過ぎらしい。そのまま二人は校舎西側の男子トイレに足を運んだ。 「ぶ、部長……?」  昼間でも薄暗いそのトイレの入り口から声をかけてみたが返事はない。一応個室の中も確認してみたが部長の姿はなかった。特に何時もと変わった様子もない。 「き、きっと、何も起こらなくて、さ、さっさと帰っちゃったんだね。あ、明日の部活、楽しみだね。明神くんは、どんな証明を、持ってくる、かな?」 「ん~……霊を肯定する証拠か……」  はじめは考え込んでいる小谷の横顔を見て少し笑った。はじめには今まで友達と呼べる人間が居なかった。それは病院通いが多かった事と、保健室登校だった事も要因なのだろうが、人と話すと吃る癖があって上手く喋れず、人から誤解される事が多かった。聞かれた事にテキパキと答えられる人たちが羨ましい。そんな人たちの中に混じって部活が出来る事がとても幸せだった。みんな自分の事を変な目で見たりしないし、一緒になって霊の悪口を言うのも楽しい。まるでそれは、自分よりも立場が低い誰かの悪口を言っている様で、自分が優位に立っている様な錯覚に浸る事が出来る。  玄関ホールへ向かう階段を下りながらふと、はじめは気付いた様に口を開いた。 「そ、そう言え、ば、み、明神くんって、小谷さんの、クラス?」  階段を下りかけていた足が止まり、小谷は目を丸くしてはじめの顔を見た。
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