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「ぼ、ぼ、僕も、何度か手紙、書いた事あるけど、け、結局あれって、子供を寝かしつかせるために作った、い、田舎の人たちの作り話しなんじゃない、かな?」
少し吃りがちに私の左隣に座った石塚 はじめが口を開いた。元々身体が弱くて殆ど保健室登校だったらしい。先天性の少し難しい病気らしく、薬は手放せないのだそうだ。病的な青白い肌とは少し対照的で運動しないためか少しふっくらしている。涼子と同じ二年生だが、クラスが隣なので彼とは部活で会うまで存在すら知らなかった。けれども話してみると、意外に会うのだ。
「何処にでもあるよね。早く寝ないと鬼が来るよ~とかそんな感じなんだよね~」
私がそう言って笑うと、部長の正面に座っていた彼が静かに口を開いた。
「鬼は居る」
彼の言葉に一瞬部屋の空気が静まり返った。何時もなら「そうだよねぇ~」とか「くだらないよね~」とか笑い合って盛り上がるところなのに、彼はその空気を一刀両断したのだ。「ぷっ」と松岡が噴出すとそれにつられる様にみんなお腹を押さえて笑い出す。
「ばっかじゃね~の? お前小学生? 鬼なんか信じてんのかよ!」
「明神君、鬼なんて昔の人が作った偶像だよ」
松岡に続いて部長の山崎が笑いを堪えながら言う。そう、彼は今日私たちの部活に入部して来た新人なのだ。全く話しの空気は読めないが、女の子みたいな可愛らしい顔と切れ長な目がカッコイイ男の子だ。名前は……明神 彦って言ったっけ。私と同い年にしては少し垢抜けていない感じがする。
「偶像だと言う根拠は?」
明神の表情は変わらなかった。少しとっつき難い性格で頑固、というよりも天邪鬼だと思う。
「霊を見たって話しはよく聞くけど鬼を見たって話しは聞かないな。現に僕も鬼に会った事がないし見た事もない。じゃあ何故見た事がないか? それは鬼が居ないからだよ」
「じゃあ幽霊は信じるんだ?」
「僕は幽霊にも会った事がない。心霊写真は光の反射や合成だし、光る発光体はプラズマだろう。霊媒師は精神病を患ったための幻覚幻聴症状を起こした人か、ただの詐欺師だね」
淡々と部長は語ってみせた。取り付く島も無い。正直言って、部長を相手にして幽霊の存在を肯定するなんて無理だと思う。
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