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画面の中で、亞里沙は緩いウェーブのかかった髪を制服にたらし、まるでフランス人形のように品良く微笑んでいる。八季竜之介の妻――亞里沙の母親は八季の一族ではなく、普通の日本人だった。
にも関わらず、彼女の瞳は純粋な血の流れる八季のような、美しい薄緑色に輝いている。その翡翠のような色は、白い肌と黒髪に奇妙にマッチして、彼女をさらに美しく見せていた。
『まあ、可愛らしいお嬢さんですね。お人形さんみたい』
亞里沙の不思議な雰囲気に飲まれたように、アナウンサーがつぶやく。それから自分の仕事を思い出したように少しかがみ込み、マイクを向けた。
『亞里沙ちゃんは、お父さんが選挙に出ると知ったとき、どう思いましたか? 亞里沙ちゃんはその――』
出されたカンペをちらりと見るようなそぶりをしてから、アナウンサーが続ける。
『お母様は亡くなっているんですよね。議員に立候補となりますと、お父様も忙しくなって寂しいんじゃないですか?』
『ええと…』
さらり、と髪を揺らして亞里沙は首をかしげた。
『もちろん、寂しいです』
『そうですよね』
我が意を得たりと言わんばかりに、アナウンサーが悲しげに頷いてみせる。しかし、亞里沙はけなげにも薄く微笑んで見せた。
『けれど、お父様はわたしから見ても、とっても立派な人です。だから、わたしも応援したいと思いました』
『そうなの』
泣き笑いのような顔を作り、何度もアナウンサーが頷く。
「立派な人、じゃなくて、立派な八季、だろ」
「ショウ!」
混ぜっ返す翔を、恵美が咎める。翔はそれを無視して肩をすくめた。
「だってあいつ、普段はあんなに大人しくないぜ。テレビに出るからってお嬢様ぶっちゃってさ」
「あなたいい加減に――」
「ごちそうさま」
恵美の怒りに完全に火が付く前に、翔は席を立った。つられて正博が時計を見上げる。そして、おや、と眉を上げた。
「今日はえらく早いな」
「まあね」
曖昧に頷き、ベージュのコートを羽織る。
「待ち合わせしてるんだ」
「誰と?」
聞かれたくないことこそを、聞いてくるのが母親だ。しかし、まさか美咲に誕生日プレゼントを渡すためだとは言えない。
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