第2章 12月5日(金) 午前6時51分

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 画面の中で、亞里沙は緩いウェーブのかかった髪を制服にたらし、まるでフランス人形のように品良く微笑んでいる。八季竜之介の妻――亞里沙の母親は八季の一族ではなく、普通の日本人だった。  にも関わらず、彼女の瞳は純粋な血の流れる八季のような、美しい薄緑色に輝いている。その翡翠のような色は、白い肌と黒髪に奇妙にマッチして、彼女をさらに美しく見せていた。 『まあ、可愛らしいお嬢さんですね。お人形さんみたい』  亞里沙の不思議な雰囲気に飲まれたように、アナウンサーがつぶやく。それから自分の仕事を思い出したように少しかがみ込み、マイクを向けた。 『亞里沙ちゃんは、お父さんが選挙に出ると知ったとき、どう思いましたか? 亞里沙ちゃんはその――』  出されたカンペをちらりと見るようなそぶりをしてから、アナウンサーが続ける。 『お母様は亡くなっているんですよね。議員に立候補となりますと、お父様も忙しくなって寂しいんじゃないですか?』 『ええと…』  さらり、と髪を揺らして亞里沙は首をかしげた。 『もちろん、寂しいです』 『そうですよね』  我が意を得たりと言わんばかりに、アナウンサーが悲しげに頷いてみせる。しかし、亞里沙はけなげにも薄く微笑んで見せた。 『けれど、お父様はわたしから見ても、とっても立派な人です。だから、わたしも応援したいと思いました』 『そうなの』  泣き笑いのような顔を作り、何度もアナウンサーが頷く。 「立派な人、じゃなくて、立派な八季、だろ」 「ショウ!」  混ぜっ返す翔を、恵美が咎める。翔はそれを無視して肩をすくめた。 「だってあいつ、普段はあんなに大人しくないぜ。テレビに出るからってお嬢様ぶっちゃってさ」 「あなたいい加減に――」 「ごちそうさま」  恵美の怒りに完全に火が付く前に、翔は席を立った。つられて正博が時計を見上げる。そして、おや、と眉を上げた。 「今日はえらく早いな」 「まあね」  曖昧に頷き、ベージュのコートを羽織る。 「待ち合わせしてるんだ」 「誰と?」  聞かれたくないことこそを、聞いてくるのが母親だ。しかし、まさか美咲に誕生日プレゼントを渡すためだとは言えない。
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