第13話 12月24日(水) 午後6時0分

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「時折、落雷の大きな音が耳をつんざくように聞こえていた――だから私は気づかなかったんだ。気づいたのは、火がついたように泣きだしたアリサの声が聞こえてからだ。私は声のする方へ駆けつけた。そして見つけたんだ。血だまりに倒れる、陽子の姿を――」  竜之介の記憶が写し絵のように翔の中で紡がれていく。血だまりの中の陽子に駆け寄る竜之介――紡がれたその光景は、美咲の元へと駆け寄る翔のそれと重なっていく。血だまりに倒れた美咲に、翔は祈るように言った。美咲、大丈夫か―― 「大丈夫か――」  竜之介が声を絞った。 「――私は彼女の隣に跪き、叫んだ。骨折したのだろう、彼女の腕はあらぬ方へ曲がっていて、顔は青ざめているのが薄闇の中でも見えた。病院へ――私は血まみれの彼女を抱き上げ、急いで車に向かおうとした。そのときだった」  美咲――翔の呼び声に、美咲はうっすらと目を開けた。くちびるが何かを伝えようと、震えて開いた。 「陽子が目を開けた。生きている――私が喜んだのもつかの間だった。目を開けた途端、彼女は驚いたように声を上げ、体をひねるようにして私の腕から逃れようとした。その拍子に彼女の口から言葉が漏れた」  けれど、美咲のそのくちびるから漏れたのは言葉ではなく、ひゅう、という空気が喉を掠めるような音だけだった―― 「――夜鬼、彼女はそう言ったんだ」  まるで罪を告白するように、竜之介は言った。けれど、翔はその言葉を聞いてはいなかった。  翔が耳を傾けていたのは、記憶の中の彼女の、あの言葉にならなかった吐息だった。ひゅう――そう漏れた吐息の中にひそんだ、彼女の言葉―― 「私は咄嗟に振り返り、鏡を覗いた。そしてそこに、私は見た。私の両の瞳が薄闇の中、緑色に光っているのを。頬が上気し、興奮の只中にいることを示すのを。くらくらするような血の匂いが立ち上るたび、その光は強さを増していくのを」  声は悲しみの色を増した。
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