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『本日、第四十九回衆議院議員総選挙の公示が行われました。何と言っても、今回の話題は東京三区。現職で自民党の碓氷源太郎氏と事実上の一騎打ちとなりそうなのが、新党海風の党首、八季竜之介氏です』
カメラが八季竜之介のポスターをアップで映し出す。八季――その苗字が示す通り、にこやかに微笑む彼の瞳もまた薄緑色をしている。
『まさに海風のようにさわやかに現れた噂のあの人の印象を、街の人に聞いてみました』
画面が切り替わり、二人組の年配女性が会話している様子が映し出される。八季竜之介氏についてどう思われますか、という質問がテロップで表示されている。
『あー、知ってますう』
年甲斐もなく身をくねらせながら、二人組の一人が答えた。
『だって、すごくハンサムじゃない。外国の俳優さんみたいで、ねえ?』
『とっても、品が良くって。あの人に似てるわ、あの人――あら、誰だったか全然思い出せない』
次は若い女子中学生とおぼしき五人組だ。
『あ、知ってる知ってる! 緑の目のおじさんでしょ? なにあれ、超カッコよくない?』
『え、これカラコンつけてんの?』
『違うよ、生まれつきらしいよ』
『まじで? カラコンとか、お洒落なオッサンだなーって思ってたんですけど』
カメラをまったく気にせずに、女子中学生たちは一斉に笑い声を立てる。
その高い声に、恵美は不快そうに眉をしかめる。
するとそこで、ディレクターらしきの男の声が五人組に質問を投げかけた。
『八季って知らない? ほら、島の――』
『島?』
とりわけ頭の悪そうな女子が首をかしげる。隣の眼鏡があっ、と手を叩いた。
『え、この人、まじであの八季ってことですか?』
『えー、そうなんですかあ』
『っていうか、議員とか、いいんですか? だって八季って、その……』
少しは八季についての事情を知っているらしいショートカットが、笑みを浮かべながらもおもねるようにカメラを見る。でも逆にカッコよくない? と、小太りが目を輝かせる。
「いまの若い子は何にも知らないのね」
たまりかねたように恵美が小さく吐き捨てる。
「わたしたちは『夜鬼』じゃなくて『八季』よ。こんな言い方じゃ、まるでわたしたちがいまも人間を喰べている――夜鬼だって言ってるようなものじゃない」
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