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第2章 12月5日(金) 午前6時51分
その日の朝は、雲一つない快晴だった。テレビのニュースでは、今日一日晴れだという予報を伝えていたし、冬晴れのいい天気ですね、などとコメントするアナウンサーの顔もどこか浮き浮きとしているようだった。
そんな朝の天気から一変、夜半からの濃い霧、そしてその霧が雨となる――そんなことを予想した者など、きっと誰一人としていなかったに違いない。
十二月五日。目覚まし時計代わりの携帯に表示された日付――それから日付の下に記された予定を見て、八季翔は思わず笑みを浮かべた。
昨夜、エアコンのスイッチを切るのを忘れたせいで、二階の翔の部屋の空気は暖かく乾燥していた。おかげで、普段なら薄氷のように冷たいワイシャツも柔らかく温もっている。翔は急いで服を着替え、カバンの中身を点検すると、机の上に置いておいた包みをそうっと入れた。
美咲は喜んでくれるだろうか。考えるだけで胸が躍り、翔は再び笑みを浮かべた。
包みの中身は小遣いを貯めて買ったペンダントだった。細い鎖の先に、彼女の誕生石である小さなトルコ石が上品な銀細工に嵌められている品だ。高校生の小遣いで買えるくらいだから、そんなに高価な物ではない。
しかし、半年前に滝本美咲とつきあい始め、デートでたまたま訪れた雑貨店で彼女が綺麗だと言ったときから、贈ろうと思っていた品だった。
翔の登校前に、美咲はいつもの待ち合わせ場所で待っているはずだった。そのときに渡そう――翔は足音も軽やかに階段を降りる。リビングに顔を出すと、薄緑色の瞳をした父――正博が声が振り向いた。
「おはよう。いつもより早いな」
「……まあね」
人間ではない――いや、少なくとも日本人ではないことを表しているようなその瞳に、翔は習慣で目を伏せた。もちろん、そんなことをしても意味がないのは百も承知だ。
翔自身も、朝食をテーブルに並べている母親の恵美さえも、正博と同じ色――薄緑色の瞳をしている。そして翔たちだけではない。八季と苗字のつく家の人々は、皆同じ色の瞳をしているのだから。
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