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 元々、桜は好きだ。一番季節を感じると千歳は思う。花の咲いている期間など、そう意識をする事もないが、春先の桜と夏の向日葵には千歳は季節を感じる。一ヶ月程も咲かない桜には儚さすら感じていた。どうしてだろうと思っても、日本人だからと言うくらいしか千歳は思いつかない。  日本らしい花だとは、思う。薄い紅色で、小さな花を咲かせ、雨や風にすぐに散ってしまうが、咲き誇った姿は儚くも、美しい。  ぼんやりとした千歳の意識を、部室のドアが開く音が引き戻した、千歳は慌てて外していた眼鏡をかける。 「千歳、また居たの? お前さあ、最近ずっと居るよなあ。休みだってえのに。寂しい奴だなあ」  ドアを開けるなり千歳にそう言うのは、千歳の友人、神楽弥だ。人懐こそうな顔をするが、それが外面である事を千歳は知ってる。 「放っておけよ。関係ねえだろ」  眼鏡をかけた千歳は神楽に素っ気なく返す。 「千歳、こないだの追いコンあった辺りから毎日居るよな」 「気のせいだよ、馬鹿」  千歳は神楽の言葉に務めて冷静に返した。 「あの時何かあったのか?」 「何もねえよ。神楽は直ぐにそうやって何かと無理矢理結びつける。暇なのか?」 「暇でもねえよ。ウザイ女が多いし」 「……お前、一回死んだらいいんじゃねえの?」  千歳は感情のない声で言う。普段、千歳は余り言葉に感情を出さない。それが千歳にとって、通常だ。 「千歳さ、急に人間らしくなったよな」 「は? 何言ってんの? 神楽、馬鹿なの?」
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